倍音とは?
§ 倍音を理解しよう §
音を奏でる楽器のほとんどはこの“倍音”を持っていて(人の声も!)、目立つ/目立たないはあるにせよ、実際に演奏する基音に対して2〜3オクターブ上の音までが混ざって出ているのです。(整数倍音表参照)
※上記周波数は純正律での計算になるため、ピアノロールの基音対応表(平均律)の周波数とは若干の差が出てきます。
この「純正律」と「平均律」については難しい説明になってしまうので、興味のある方は個別に調べてみて下さい。
表を見てわかるように第4倍音までは協和音(※注1)ですが、それ以降には不協和音も混在してきます。特に第9倍音以降はとても厳しい不協和音が鳴ってしまうことになりますが、この辺りは聴感上ほとんど気にならない部分です。
注1:協和音とは完全5度とオクターブの音程のことを言い、それ以外の音程は全て不協和音になります。
また、これらは音程を持つ楽器の倍音列で、ドラムなど打楽器はちょっと特殊で、このような整数倍の倍音ではなく不規則な非整数倍音が生じます。
そしてこの「倍音」の聴こえ方が、楽器固有の音色を作り出しているのですが、イコライジングの基本は、実は基音をいじることよりこの“倍音を整理すること”が重要だったりするのです。
ではギターを例にとって話を進めましょう。
ギターで演奏可能な基音、6弦の解放音(E2)から1弦の12フレット(E5)までの3オクターブがどのくらいの周波数帯になるか想像してみて下さい。前ページ図2の周波数表にあてはめてみると、
下は「E2=82.407Hz」
上は「E5=659.26Hz」となります。
どうです?予想よりだいぶ低かったのではないでしょうか?
§ 倍音のイコライジング §
ギターといえば我々プロのエンジニアもまず中域1.5KHz〜3KHzぐらいを意識してブーストすることが多いのですが、この辺りは実際には基音ではなく、倍音に相当する部分をいじっているということになります。
ではなぜそこをEQするのかというと、基音が他の楽器でマスキングされて聴こえないような場合に、
“倍音をいっじって基音を感じさせている”のです。
例えばギターなどがオケの中に埋もれて見えなくなっているような場合、この倍音領域をブーストすることで“音がヌケる”という状態になったりするのです。
しかし、当然のことながら基音である低域〜中低域を無視することはできません。
楽曲中、ほとんどの楽器やボーカルの基音は100Hz〜700Hzぐらいの間に集中しているので“どの楽器がメインなのか?”という事をしっかり踏まえて音作りをすることが大切なのです。
§ 倍音の実例 §
下記画像は、バイオリンがミドルA(440Hz)の音程を弾いた時の音をアナライザーで表示したものですが、ここに興味深い結果が示されています。
基音の440Hzが一番大きく振れ、次に第2倍音の880Hz、そして第3倍音の1,320Hzと第4倍音の1,760Hz辺りは一緒になっているような感じですが、だいたい理論的に言われているポイントがだんだんレベルが落ちるように存在しているのが分かりますね。
ちなみに、倍音は読んで字のごとく、下には存在しません。
次に下記音例を聴いてみて下さい。
1つ目は、バイオリンがミドルA(440Hz)の音程を弾いた時の音をそのまま再生。
2つ目は、イコライザーで440Hzの前後を鋭くカットして再生。
3つ目は、440Hzの正弦波をオシレーターでならしているものを再生。
いかがです?
「バイオリンの倍音」がどういうものなのかを感じていただけたのではないでしょうか。
倍音の豊かなバイオリンから「倍音」をEQでカットしてしまうと、味気のない3つ目の正弦波のようになってしまうのです。
参考までに3つのアナライザーを紹介しておきましょう。
①
②
③
このように、楽器のほとんどには「倍音」が存在しています。
今回は分かりやすく単音の例を出しましたが、コードトーンになると、かなり複雑な倍音構成になった和音が形成されます。
なので、算数のように計算する必要なんて全くありません。楽器というのは、こういうものが必ず一緒に鳴っているのだということを理解しつつ、その楽曲、あるいはそのコードトーンにとって邪魔になっているポイントに敏感になって下さい。
次回は「イコライジング」について解説します。