<中編> 「音圧戦争の功罪」
ボカロPの使っている音源はみな同じ?
に:最近ボカロ界隈で良く言われるのは、使う音源が大体みんな一緒なんですよ。
40:ドラムで言えば…AD (XLN AUDIO のAddictive Drums)が圧倒的。ベース音源はトリリアン。使い勝手がいいんです。
に:ストリングスはQLSOかビエナのチェンバー。そうすると、普通に同じ音でどう区別したらいいのか、が問題になります。ADのプリセットを使うと、ドラムの音がみんな同じ。みんな「自分の音」っていうのをどう作ったらいいんだろう?って言っているんです。
スネアのピッチ調整は超・重要
飛:僕がニコ動とか聞いてて凄く気になるのは楽曲のキーにスネアのピッチがあってない人が多いんですよ。ドラムや打楽器ってチューニングしなくていいもの、って思ってるらしい。
40:あぁ・・・やらないといけないとは思ってるんですけど・・・
飛:自分で曲つくってるようなアーティストでも、「え?打楽器ってチューニングするんですか?」みたいな人がいます。でも、スネアのチューニングは凄く重要なんです。楽曲のキーに合ってないと、歌を邪魔してしまう。だから一度・五度など、曲に合うところに合わせて欲しい。
に:スネアが重要だっていうのは、ボーカルやメロとかぶったりするんでしょうか?
飛:チューニングの悪いものが一つ鳴ってるだけで、楽器のコード感を邪魔する。しかもそれがスネアで二(拍)四(拍)で鳴ってたらね、曲を通して違う音程のものが鳴ってるということになっちゃう。ほとんどのドラム音源で、ピッチ調整はできると思うよ。
に:ぜひ今度そのあたりの講座があると嬉しいです。
40:MIXって言うより、音作りやアレンジのところから(笑)
飛:一個一個の音を吟味するところからですね。
に:最初にDTMから入ってしまうと、どうしてもまずプリセットに頼ってしまうので。
飛:デモ段階では無理して最初から色んな音作らなくても、まずはプリセットからでいいと思いますよ。でも一度「できました!」になってからは色々試行錯誤すると、だいぶ作品のクオリティが変わります。
マスタリングの前にMIXが大事!
せ:初心者にありがちな、「これみんな気がついてないんだよね」とか「こういうところやって欲しいよね」というところはありますか?
飛:ニコ動を見ていると、「マスタリング」「マスタリング」と言っている人が多いような気がします。MIXを通り越して、「マスタリングはこの人にやって貰いました」と言うのが多い。MIXはたぶん本人たちがやってるんだろうけど、何か、マスタリングが凄く特別で、その手前に意識が行っていないような感じがします。
に:ニコ動って「音が大きい方が勝ち」みたいなところありませんでしたか?
40:ありますね。って言うか、今もそうですね。
飛:音楽業界的にも、音圧戦争はあるからね。
40:特にニコ動では、音が大きい方がいい曲に聴こえるんです。「マスタリング」ってみんなが言ってるのも、結局「音圧をあげる」って意味での「マスタリング」。MIXは自分でやるんですけど、最終的には、音質を下げずに音圧を稼いでください、と誰かにお願いするって言うのは、結構みんなやってます。特殊な「ニコニコ向けのマスタリング」って言うのもありますね。
飛:エンコーダーの関係で、アップすると、高域の方が相当なまるから。
に:最近はでも「ちょっと疲れたので音圧を優し目にしました」って言う人もちょこちょこ出てきてます。
音圧は正義なのか?
飛:いまの音楽業界も同じで、一時期の音圧戦争から、ちょっと抜け出て来てます。音圧上げる作業はしますけど、「これは誰にも負けくらい」って言うのは、今はあまりやられていないんじゃないかな。
に:ボカロ界隈ではまだやっぱり音圧ですよね。
40:大きい方が正義、みたいな。
に:やっぱりそれは、ニコニコの特殊な世界なんでしょうか?ニコニコ動画だと、再生環境が携帯電話で聴く人が二割くらいいたりすると聞いたことがあります。他にもノートPCだったりとか、再生環境がプアだから音圧がでっかい方が良く聞こえたりするのかな、って思います。
せ:あとはシャッフル再生のせいじゃないでしょうか。同じアーティストの一枚のアルバムだったら、聴き手はボリュームをしょっちゅういじらなくて済むんですよ。ところがシャッフルだと色んなものがランダムに出てくるので、大きい音の曲の方が良く聴こえるんですね。あと商業の世界では、コマーシャルの時に音が大きくなるようにしていたので、その流れもあるのかもしれません。ということで「音圧は正義」みたいなことが、世の中的に拡がって行ったんじゃないかと思いますけれども。
音圧戦争の功罪
飛:パッと耳をひくには、音圧あげるのが一番手っ取り早いからね。でもその曲ずっと聴いてる疲れちゃうよね。ガーッと歪んだような曲を最後まで聴けるのか、って言ったら・・・ね?
(一同うなずく)
に:このあいだ、CDが出てすぐ、1980年くらいの、とあるミュージシャンのCDをPCにとりこんだんですよ。興味本位で波形を見てみたら…凄く(音圧が)小さくて。
飛:そのころはアナログとCDを両方出していたんですよ。だからアナログ盤に入れるレベルと同じものをプリントしていたので凄く音がちっちゃいんです。その当時出した人たちは90年代に入って「デジタル・マスタリング」と言ってみんなマスタリングし直しているんですが、それでも今よりはまだ小さい。
せ:マスタリングやる人の間では最近の波形を「海苔」って言ったりします。ベターっと真っ黒に塗りつぶされるので。
に:昔のCDを取り込んだ奴は、「海苔」にはなってなかったです。
飛:昔のはちゃんと強弱が波形で分かりますよね。それにてっぺんまで余裕があるから「抑揚」も表現しやすいんです。